業務上過失(従業員のミス)と個人弁済を考える
2016年 11月 11日
2015年の夏、千葉県の市立小学校で教諭がプールの給水口の栓を閉め忘れ、大量の水を流失させた事故があったようです。このミスで県の水道局から請求された水道料金は約438万円。報道によると、この小学校の校長・教頭そしてミスをした教諭の3人が、3分の1ずつの負担割合で弁済したという事です。
このような関係者のみで全額を弁済する例は珍しいのですが、同じように従業員が業務上のミス(過失・重過失)を犯し、会社に損害を与えたような場合、会社は従業員に対して金銭の支払請求ができるのでしょうか。また、従業員は業務上のミス(過失)による弁済の一部を免れることができるのでしょうか。判例を交えて、お伝えしておきます。
今回のように従業員のミスで会社に損害を与えた場合に対し、会社側がとることのできる対応措置としては、まず損害賠償以外の対応として、人事考課・懲戒処分・退職金の減額などが挙げられます。
加えて、損害賠償(または求償権の行使)を考えると、従業員が職務の遂行にあたり、必要な注意を怠って労働義務に違反した場合には、民法415条により債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことがある。
また、従業員の不法行為で第三者に損害を生じさせ会社が第三者に賠償したような使用者等の責任として、民法715条3項により会社が従業員に求償することも考えられます。
但し、上記の件における注意点として、労働基準法16条により「使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とされています。
※法律上の労働者を従業員、使用者を会社とします。
また、仮に従業員への金銭請求が認められたとしても、裁判においては全額の請求が認められないケースが多くみられます。
茨石事件 --- 最高裁判:1976年(昭和51)7月8日
従業員がタンクローリーを運転中、車間距離不保持と前方注視不十分の過失により、急停車した先行車に追突。会社が車両修理費等を負担したため、従業員に対して約40万円の支払を請求しました。
この事件で最高裁は、①事業の性格、②事業の規模、③施設の状況、④被用者の業務の内容、⑤労働条件、⑥勤務態度、⑦加害行為の態様、⑧加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、⑨その他諸般の事情に照らし、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」のみ、従業員に対して損害賠償請求または求償請求ができると判断しました。
本件では、会社が経費削減のため対物賠償責任保険や車両保険に加入していなかったこと(上記⑧)、従業員はタンクローリーには臨時的に乗務するにすぎなかったこと(上記④)、従業員の給与が月額約4万5000円であること(上記⑤)、勤務成績が普通以上だったこと(上記⑥)などを考慮し、従業員の負担分として損害の25%(約10万円)を上限としました。
上記の茨石事件の後も、様々な裁判例がありますが、一概に「従業員の負担は何%程度」と断言するのは難しい状況です。学説には、従業員の軽過失の場合にはおよそ5%から30%、重過失の場合はおよそ50%から70%を負担すると整理するものもありますが、数字だけが一人歩きするのは危険です。むしろ裁判所は、事案ごとの特色を踏まえて、損害が公平に分担されるよう考慮しているというべきでしょう。
他、4つの裁判例も提示しておきます。
郵便事業(特定郵便局局長)事件 --- 福岡地判:2008年(平成20)2月26日
従業員が、内国郵便約款等により定められた適正な単価や割引率の適用等を行って不当に損害を与えないよう配慮する義務に、故意または重過失によって違反し、会社(日本郵政公社)に約6億7000万円の損害を生じさせたケース。
判決は、勤務態度が誠実であること、営業目標のノルマ制という労働環境にも一因があること等を考慮して、従業員の負担分を5000万円(損害の約7.4%相当)とした。
丸山宝飾事件 --- 東京地判:1994年(平成6)9月7日
営業担当の従業員が、重過失により、宝石類の入った鞄を窃取され、会社に約2760万円の損害を生じさせたケース。
判決は、従業員の勤務態度に問題がなかったこと、従業員の給与額、会社が盗難保険に加入していなかったこと等を考慮して、従業員の負担分を約1380万円(損害の約50%)とした。
ワールド証券事件 --- 東京地判:1992年(平成4)3月23日
従業員が業務命令に違反して、顧客から注文代金の一部が入金される前に株式の買い付け注文を受けて執行したため、会社に約1億4800万円の損害を生じさせたケース。
判決は、会社側にも、他部門にまで業務命令を周知させておらず、業務命令違反の注文を看過していた過失があることを考慮して、過失相殺により、従業員の負担分を約1億300万円(70%)とした。
大隈鐵工所事件 --- 名古屋地判:1987年(昭和62)7月27日
従業員が深夜勤務中の居眠りにより、切削作業用の機械にキズをつけ、約333万円分の損害を生じさせたケース。
判決は、会社が機械保険に加入していなかったこと等を考慮して、従業員の負担分を約83万円(損害の約25%相当)とした。
※裁判例の詳しい内容は、判例集等にて判決文をご参照下さい。
以上、裁判所が従業員の負担額をどのように判断するかは、事案ごとに異なるため、予測が困難です。
裁判所が、上記茨石事件の⑧で、「加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度」を考慮していることは重要で、会社としては従業員に対する賠償請求という事後の対応に注力するよりも、むしろ従業員のミスを予防し、仮にミスが生じても損害が最小になるような事前の対策が必要でしょう。
例えば、従業員にどのようなミスが生じ得るかを事前に洗い出したうえで、稼働の負担が重くなりすぎないよう従業員の負荷を分散する事故防止のためのTQC(ト―タル・クオリティ・コントロール)や適切な従業員教育を行ない、各種保険に加入するといった対応策などを考えてみる事が大切です。
このような関係者のみで全額を弁済する例は珍しいのですが、同じように従業員が業務上のミス(過失・重過失)を犯し、会社に損害を与えたような場合、会社は従業員に対して金銭の支払請求ができるのでしょうか。また、従業員は業務上のミス(過失)による弁済の一部を免れることができるのでしょうか。判例を交えて、お伝えしておきます。
今回のように従業員のミスで会社に損害を与えた場合に対し、会社側がとることのできる対応措置としては、まず損害賠償以外の対応として、人事考課・懲戒処分・退職金の減額などが挙げられます。
加えて、損害賠償(または求償権の行使)を考えると、従業員が職務の遂行にあたり、必要な注意を怠って労働義務に違反した場合には、民法415条により債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことがある。
また、従業員の不法行為で第三者に損害を生じさせ会社が第三者に賠償したような使用者等の責任として、民法715条3項により会社が従業員に求償することも考えられます。
但し、上記の件における注意点として、労働基準法16条により「使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とされています。
※法律上の労働者を従業員、使用者を会社とします。
また、仮に従業員への金銭請求が認められたとしても、裁判においては全額の請求が認められないケースが多くみられます。
茨石事件 --- 最高裁判:1976年(昭和51)7月8日
従業員がタンクローリーを運転中、車間距離不保持と前方注視不十分の過失により、急停車した先行車に追突。会社が車両修理費等を負担したため、従業員に対して約40万円の支払を請求しました。
この事件で最高裁は、①事業の性格、②事業の規模、③施設の状況、④被用者の業務の内容、⑤労働条件、⑥勤務態度、⑦加害行為の態様、⑧加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、⑨その他諸般の事情に照らし、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」のみ、従業員に対して損害賠償請求または求償請求ができると判断しました。
本件では、会社が経費削減のため対物賠償責任保険や車両保険に加入していなかったこと(上記⑧)、従業員はタンクローリーには臨時的に乗務するにすぎなかったこと(上記④)、従業員の給与が月額約4万5000円であること(上記⑤)、勤務成績が普通以上だったこと(上記⑥)などを考慮し、従業員の負担分として損害の25%(約10万円)を上限としました。
上記の茨石事件の後も、様々な裁判例がありますが、一概に「従業員の負担は何%程度」と断言するのは難しい状況です。学説には、従業員の軽過失の場合にはおよそ5%から30%、重過失の場合はおよそ50%から70%を負担すると整理するものもありますが、数字だけが一人歩きするのは危険です。むしろ裁判所は、事案ごとの特色を踏まえて、損害が公平に分担されるよう考慮しているというべきでしょう。
他、4つの裁判例も提示しておきます。
郵便事業(特定郵便局局長)事件 --- 福岡地判:2008年(平成20)2月26日
従業員が、内国郵便約款等により定められた適正な単価や割引率の適用等を行って不当に損害を与えないよう配慮する義務に、故意または重過失によって違反し、会社(日本郵政公社)に約6億7000万円の損害を生じさせたケース。
判決は、勤務態度が誠実であること、営業目標のノルマ制という労働環境にも一因があること等を考慮して、従業員の負担分を5000万円(損害の約7.4%相当)とした。
丸山宝飾事件 --- 東京地判:1994年(平成6)9月7日
営業担当の従業員が、重過失により、宝石類の入った鞄を窃取され、会社に約2760万円の損害を生じさせたケース。
判決は、従業員の勤務態度に問題がなかったこと、従業員の給与額、会社が盗難保険に加入していなかったこと等を考慮して、従業員の負担分を約1380万円(損害の約50%)とした。
ワールド証券事件 --- 東京地判:1992年(平成4)3月23日
従業員が業務命令に違反して、顧客から注文代金の一部が入金される前に株式の買い付け注文を受けて執行したため、会社に約1億4800万円の損害を生じさせたケース。
判決は、会社側にも、他部門にまで業務命令を周知させておらず、業務命令違反の注文を看過していた過失があることを考慮して、過失相殺により、従業員の負担分を約1億300万円(70%)とした。
大隈鐵工所事件 --- 名古屋地判:1987年(昭和62)7月27日
従業員が深夜勤務中の居眠りにより、切削作業用の機械にキズをつけ、約333万円分の損害を生じさせたケース。
判決は、会社が機械保険に加入していなかったこと等を考慮して、従業員の負担分を約83万円(損害の約25%相当)とした。
※裁判例の詳しい内容は、判例集等にて判決文をご参照下さい。
以上、裁判所が従業員の負担額をどのように判断するかは、事案ごとに異なるため、予測が困難です。
裁判所が、上記茨石事件の⑧で、「加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度」を考慮していることは重要で、会社としては従業員に対する賠償請求という事後の対応に注力するよりも、むしろ従業員のミスを予防し、仮にミスが生じても損害が最小になるような事前の対策が必要でしょう。
例えば、従業員にどのようなミスが生じ得るかを事前に洗い出したうえで、稼働の負担が重くなりすぎないよう従業員の負荷を分散する事故防止のためのTQC(ト―タル・クオリティ・コントロール)や適切な従業員教育を行ない、各種保険に加入するといった対応策などを考えてみる事が大切です。
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